エクセルシア盛岡中央高校デジタルブック Vol.20
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From Iwate to the world 岩手から世界へ 自然とを交感する賢治ならではの表現に内在するみずみずしい体感は、読む人を引き付けてしまいます。ここの「風」もまた、賢治文学で大きなウエイトを占めています。わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です(あらゆる透明な幽霊の複合体)風景やみんなといつしよにせはしくせはしく明滅しながらいかにもたしかにともりつづける因果交流電燈のひとつの青い照明です(ひかりはたもち その電燈はうしなはれ)『春と修羅』序より 時空間を行き交うすべての主体を鋭敏に感じ取り、周囲にあるいろんな意思を持つ存在が心に構成したイメージをスケッチしたこの詩集は、何度読んでも難解に思いますが、光と影、内在と外在、壊れたり生成したりする摂理。 地質学の研究で土や鉱石から太古以来の時間を体得した彼は、その独特な時間感覚、ユニークな語法、鮮烈な詩情、壮大な宇宙観を以て独自の賢治ワールドを展開しています。 宇宙は絶えずわれらによって変化する。誰が誰よりどうだとか、誰の仕事がどうしたとか、そんなことを言つてゐるひまがあるか。『生徒諸君に寄せる』より僕たちと一緒に行こう。僕たちはどこまでだって行ける、切符を持っているんだ。『銀河鉄道の夜』より 秀才、教師、農業指導者。故郷をモチーフに架空の理想郷「イーハトーヴ」を創出した賢治は、仏教を広めるには、農業を盛んにするには、心を豊かにするには、幸せとは、と生涯考え続けました。その理想郷の実現には、異質な者とを相互に結ぶ開かれたコミュニケーションの可能性が求められています。生き物はみな兄弟であり、生き物全体の幸せを求めなければ、個人のほんとうの幸福もありえないと、人と人、人と自然と環境と宇宙の関係を語る賢治の想念は多くの作品に込められています。 多情多感な優しさ、こだわり抜いた生き方、「創造的思考が宇宙を創造する」と時代の先を読んでいたような未来感。宮沢賢治文学は、過去と今、そして未来も、国境を越えて多くの読者に何かを感じさせ、その心を動かす「感動」を与え続けるでしょう。 (追記) 2018年は盛岡中央高校附属中学校のご開校を迎えたたいへん喜ばしい年です。お祝いに「楽育英才」と書した掛け軸を贈呈させていただきました。台湾の若手書家の徐孝育先生の作品です。この言葉は中国の古典『詩経』「菁菁者莪、樂育材也。君子能長人材、則天下喜樂之矣。(菁菁たる莪は、材を育するを楽しむなり。君子よく人材を長育すれば、則ち天下之を喜楽す)」によるもので、「教育とは多くの人材・英才の育成を楽しみ喜ぶことである」と、同じく教育の立場にいる者として心ばかりのご祝福を捧げた次第です。EXCELSIOR vol.20 ◆ CHUO国際教育フォーラム20回記念号97

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